ロシアのクリミア併合は固定化へ  先日24日、オランダ・ハーグで行われた日米欧の主要7カ国(G7)の緊急首脳会議は、クリミア併合を進めつつあるロシアの行動を非難すると共に、6月に予定されていたロシア・ソチでの主要8カ国

3/31 ロシアのクリミア併合後の日本の外交戦略を考える

 ロシアのクリミア併合は固定化へ

 先日24日、オランダ・ハーグで行われた日米欧の主要7カ国(G7)の緊急首脳会議は、クリミア併合を進めつつあるロシアの行動を非難すると共に、6月に予定されていたロシア・ソチでの主要8カ国(G8/G7にロシアを追加)首脳会議への不参加を決めました。

 会議の結果、まとめられた首脳宣言(ハーグ宣言)では、ロシアの行動は国際法違反だとして、次のように非難しています。

 「国際法は、強制や力によって他国の一部又は全部の領土を取得することを禁じている」「我々はまた、国際法及び特定の国際的な義務に違反してクリミアを併合しようとするロシアの違法な試みを強く非難する」

 確かに、国連憲章の2条4項では「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも(中略)慎まなければならない」と定めています。

 個別の条約では、1994年にウクライナと米国、英国、ロシアとの間で「ブダペスト覚書」が結ばれており、ウクライナが核兵器を放棄し、非核保有国として核拡散防止条約(NPT)に加盟する代わりに、領土保全と主権を保障されることになっています。

 1997年に締結された「ロシア・ウクライナ友好協力条約」でも、ウクライナの領土保全、両国の国境不可侵が合意されました。

 したがって、16日に行われたクリミアの住民投票では圧倒的多数がロシアへの編入に賛成したものの、「自警団」を名乗る軍隊を侵入させてウクライナ軍を排除し、ロシアに編入してしまうのは、これらの憲章や条約を無視しており、国際法に違反する行動といえます。

 しかしながら、国際社会には、そうした国際法による秩序を維持する一般的な強制力が存在しないというのも事実です。

 一元的な世界政府が存在して、その政府が強制力を以って各国を従わせるということはなく、主権国家が相互のやりとりの中で条約や慣習法等のルールや秩序を形成し、維持しているというのが現状の国際社会のあり方です。

 もっとも、第二次大戦後は米国が「世界の警察官」として、国際秩序維持の裏付けとなる強制力を、一主権国家ながら擬似的に提供してきました。

 米ソの冷戦期は世界の半分に対して、冷戦終結後は世界のほぼ全域に対して、圧倒的な軍事力で以ってにらみを利かせ、秩序の形成・維持に主導的な役割を果たしてきました。

 ところが現在の米国はアフガン戦争やイラク戦争を経て厭戦気分が高まり、「戦争疲れ」ともいうべき状態で、オバマ米大統領は「米国はもはや世界の警察官ではない」と明言しています。

 国際秩序維持の最終的な拠り所となる軍事力の行使に極めて後ろ向きとなっているのです。

 例えばオバマ氏は昨年、シリア内戦で化学兵器が使われたら軍事介入すると言っていたのに、プーチン露大統領から外交的解決を目指す提案されるとそれに乗っかり、軍事介入を行いませんでした。

 今回のクリミア危機でも、オバマ氏は経済制裁等には熱心なものの、軍事的な介入は選択肢にまったく入れていません。シリアにさえ軍隊を送ることがなかったのですから、いわんやクリミアをや、ということです。

 プーチン氏もこのことは当然織り込み済みで、であればこそ、米欧の制裁をものともせず、クリミア併合に動いたわけです。

 結果、ロシア国内ではプーチン氏への支持率が上昇して80%以上に達しました。今後、ロシアが自主的にクリミアをウクライナに返還するということはまず考えられないでしょう。

 米欧による制裁も、ロシアにクリミア返還を促すほどの効き目は無いと思われます。米欧の制裁の影響でロシア経済の悪化が見込まれ、ロシア株式市場が暴落したのは事実ですが、それでもリーマン・ショック時と比べれば、大した下落ではありません。

 冷戦期とは違い、ロシアもグローバル経済に組み込まれて西側と相互依存関係が深まっており、特に欧州はパイプラインによる天然ガス貿易の供給元として3割以上をロシアに依存しています。

 ロシアからのガス輸入停止といった強烈な経済制裁は西側にも大きな打撃となるので、実行は不可能です。

 したがって、ロシアがこれ以上、ウクライナ東部に派兵する等の侵略的行為に出ることがなければ、そしてロシアによるクリミア統治が現地住民にとって耐えがたい悪政となることがなければ、クリミアはロシアに併合されたままで、やがて国際法違反の問題は有耶無耶となるでしょう。

 米欧の制裁も目先はエスカレートするかもしれませんが、かつての核実験を行ったインドに対する経済制裁と同じく、国際情勢や大国間のパワー・バランスの変化を受けて、あるいは経済交流の必要性によって、いずれかの時点で緩める方向に向かうのではないでしょうか。

 また、ウクライナ自体も西側からの永続的な支援が得られなければ、結局ロシアに依存せざるを得ず、その場合ロシアからの支援との引き換えでクリミアの現状を事実上追認することを迫られるでしょう。

 

 対露外交で重視すべきは国際法か中国包囲か

 では、我が国としてはロシアのクリミア併合にどう対応すべきなのでしょうか。

 もちろん、日本は価値観を共有する西側諸国と足並みを揃える必要があります。ロシアへの制裁措置は避けられません。

 しかしながら、クリミア併合を受け、一部でロシアとの「新冷戦」という言葉が飛び交ってはいるものの、我が国としてはロシアを冷戦期のソ連のような仮想敵として位置づけることのないようにすべきです。

 東アジアの国際政治状況を踏まえれば、ロシアとの対話や相互交流のチャネルは常に大きく開いておく必要があります。

 というのも、周知の通り、覇権拡大に向けて野心満々の中国が、我が国にとって安全保障上、最大の脅威となりつつあるからです。

 ロシアを中国の仲間に追いやって、日本が両国と同時に対決しなければならない状況を作り出すのは下策であり、日本がロシアと仲間になって中国を挟み込むのが上策です。

 中露それぞれの国内体制を見れば、現在のロシアは権威主義的な傾向が一部にあるとはいえ、ソ連時代のような全体主義国家ではなくなっています。一方、中国はあいかわらず共産党一党独裁の全体主義国家です。

 我が国の隣国としては他に北朝鮮と韓国が存在しますが、北朝鮮は論外として、朴槿恵大統領の韓国も近時、慰安婦や安重根など歴史問題を材料に反日路線を驀進しており、とても連携強化を図れる相手ではありません。

 日米同盟を別とすれば、我が国が連携を強化すべき近隣の有力国はロシアしか残されていないというのが東アジアの現状です(台湾は、我が国が外交的に連携を深めるには、中国との関係で乗り越えるべき障害が存在します。これについては別の機会に論じたいと思います)。

 安倍晋三首相は27日のラジオ番組で、中国を念頭に「クリミアで起こっていることは単にこの地域だけの問題ではなく、アジアでも起こり得る。そういう意味では国際社会全体の問題だ」と発言しました。それなりに正しい内容といえます。

 しかし、中国による、力を背景とした、あるいは力を行使した現状変更の試みを牽制・抑止するために、日本としてより効果的なのは、国際法の一般的な遵守を訴えることなのか、それとも中国包囲の具体的な協力国を確保することなのか、よくよく検討しなくてはならないでしょう。

 米欧によるロシアへの制裁は所期の目的を達しないだろうと、上で述べましたが、それでも短期的には、米欧との関係悪化で資金が流失し、通貨安とインフレが進んで、ロシア経済は低迷すると予想されます。

 そこで、米欧との関係が悪化したロシアとしては、経済復活のために、アジア諸国との関係強化に活路を求める可能性が高いと見込まれます。

 その場合、主要な連携先としてロシアが中国を選ぶか、日本を選ぶか。これはもちろんロシア次第ではありますが、北方領土問題以外には大きな対立の要素がない我が国を関係強化先としてロシアが選ぶ可能性は十分にあるでしょう。

 ロシアがクリミアを確保しつつ、外交的孤立から抜け出すために、クリミアに比べて戦略的価値の乏しい北方領土を差し出して、我が国に平和条約締結、経済連携強化を求めてくるというシナリオも考えられないわけではありません。

 もちろん、自国に都合の良い筋書きを期待するだけではいけません。ロシアが日本よりも中国に接近するというシナリオもあり得るわけで、その場合、中韓に加えてロシアまで反日で連携することを意味するので、我が国にとって極めて厳しい国際政治環境となります。

 したがって、クリミア問題に対して我が国としては、ひとまずは米欧と共同歩調をとるものの、この問題をきっかけとする中露の接近・反日連携は阻止しなくてはならず、ロシアに対して状況と条件次第では関係改善の可能性はあり得るというスタンスを取るのが妥当と言えます。

 

地域大国による国際秩序の分立に向かう世界

 そうは言っても、日露の接近を米国が快く思わないであろうことは容易に推察されます。

 そこで米国をどう説得するかですが、それには米国、より正確にはオバマ氏の本心を指摘することがある程度有効と思われます。

 これまでのオバマ氏の国際政治上の対応を見れば、尖閣諸島を巡る日中に紛争に米国が巻き込まれることは極力避けたいと考えているであろうことはほぼ確実です。

 つまり、米国としては表向きは「アジア太平洋重視」と言いつつも、その実、防衛上のコミットメントを緩めたいというのが本音であるのですから、日本はその分、自助努力で自らの安全保障環境を有利にする余地が認められなければなりません。

 そうした努力の中には、憲法9条そのものの改正や防衛装備の強化等、自国だけで行うことのできるものが含まれるのはもちろん、ロシアやインド、ASEAN諸国等と結び付きを強化するという外交的アプローチも含まれてしかるべきです。

 確かに、ロシアが国際法を尊重するよう圧力をかけることも大事ではありますが、日本としては対中国包囲網形成のためロシアの協力を得ることの方がより大切と言わざるを得ない面があるのです。

 このような態度は、「ダブルスタンダード」と非難される部分があるかもしれません。

 例えば、仮に中国が国際法に違反して我が国の領土を侵害するなどした場合、我が国は当然中国に「国際法を守れ」と主張するでしょう。

 結果的に、我が国はウクライナを侵害したロシアの国際法違反に対して甘く、自国を侵害した中国の国際法違反に対して厳しい態度を取ることになります。ダブルスタンダードと言えばダブルスタンダードです。

 しかしながら、冒頭でも述べたように、国際秩序を一元的に維持し強制する世界政府のような機関は存在せず、各国が自らの責任において独立と安全を確保し、国益を追求しなければならない体制、いわゆる主権国家体制が現状である以上、この種の矛盾が発生するのは避けられないところがあります。

 米国にしても、例えば中東では軍事独裁政権下のエジプトや非民主的な王政で人権問題を抱えるサウジアラビア等を同盟相手として積極的に支援してきました。

 エジプトは親イスラエルの外交路線を取っていたということがありますし、サウジについてはイランやイラク等の反米国家を牽制する上で組む必要があったということです。

 これらの関係は、内政不干渉という原則があるにしても、自由や民主主義といった普遍的価値観に立てば本来的に望ましくないものであるでしょう。中東諸国の民主化よりも、中東で親米の同盟国を確保することが優先されたわけです。

 主権国家体制を前提とすれば、その中で可能な望ましい外交のあり方は、理想主義的な大義名分と現実主義的な国益追求が乖離した場合、その幅がなるべく狭くなるよう努力する、といったものにならざるを得ません。

 ともあれ、今回のクリミア問題が発生した背景の一つとして、米国が世界の警察官をやめることを明言し、国際秩序を最終的に担保する軍事力の行使をためらうようになったことが指摘できます。

 オバマ氏は先の25日、オランダ・ハーグでの核セキュリティ・サミット後の記者会見でロシアを「地域大国」に過ぎないと批判しましたが、実は米国自体も唯一のスーパーパワーから地域大国への道をゆっくりと歩みつつあるといえるのです。

 ロシアによるクリミア併合は、今後の世界が有力な大国や地域によって割拠され、それぞれに秩序が形成される方向に向かうことの先触れと見ることができます。

 我が国としては、そのような世界の流れを踏まえ、自分の国は自分で守るという当たり前の体制を一日も早く確立しなければなりません。

 そして、東アジアの国際秩序についても、米国のコミットメントが低下して空白ができようとしつつある中、その秩序の形成・維持に責任を持つ次なる国が必要なのです。

 そうした役割を果たせる国力を持つ国は現状、日本か中国しかなく、どちらがその立場にふさわしいかは明らかだといえるでしょう。

 中国が国際秩序を牛耳ることになれば、それは東アジアから自由と繁栄が失われることを意味します。

 我が国が国防面で自立し、さらに米国と協調しながらも、東アジアの秩序形成と維持に責任を持たなければならないというのが、大局的な時代の流れです。集団的自衛権の行使容認や憲法9条改正について迷う余地はありません。

 安倍政権の外交・安全保障戦略の取り組みは基本的に正しい方向に向かっているといえますが、今後は一層のスピードアップが必要です。対露外交においても、状況と条件に応じた柔軟な対応を取ることを期待します。

 

 参考文献:大川隆法著『「忍耐の時代」の外交戦略 チャーチルの霊言』(幸福の科学出版)

立木 秀学
(ついきしゅうがく)
東京大学 法学部 第3類(政治コース)卒業後、幸福の科学入局。財務局長、専務理事などを歴任し、幸福実現党に入党。2010年7月から2012年12月まで幸福実現党党首を務める。
現在、HS政経塾塾長。
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