「小泉劇場」はエネルギー政策に通用するのか  近時、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」主張で、原発に関する議論が再び活発化しています。  自民党の石破茂幹事長は15日、小泉氏の主張に対し「原発ゼロに至るまでの時間や手法、費

11/18 原発ゼロを主張する小泉元首相は「宇宙戦艦ヤマト」を見なかったのか?

 「小泉劇場」はエネルギー政策に通用するのか

 近時、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」主張で、原発に関する議論が再び活発化しています。

 自民党の石破茂幹事長は15日、小泉氏の主張に対し「原発ゼロに至るまでの時間や手法、費用の捻出先などの具体論がなければ、単なるスローガンに過ぎない」と切り捨て、16日には、原発から発生する高レベル放射性廃棄物の処理問題にも触れて、「最終処分場にふさわしい地域はここだと示すのが、国の責任ではないか」とも述べました。

 小泉氏の問題提起がきっかけとなり、最終処分場を建設するという長年の課題に対して、政府がその解決に向けて本格的に動き出すことになれば、氏の意図には反するでしょうが、「怪我の功名」と言うべきでしょう。

 小泉氏の政治手法の特徴は「小泉劇場」と言われるように、一つの論点を取り上げて大胆な提案をし、これに反対する人たちを「抵抗勢力」と位置づけ、対立構図を大きく演出するところにあります。

 2005年の「郵政解散」はその典型で、最後は世論を味方につけて地滑り的な勝利を得ました。

 郵政民営化に関しては結論として間違っておらず、一定の評価ができるものでした。郵貯や簡保を含む郵政事業は民営事業として十分やっていけるものなのですから、非効率を生みがちな政府の仕事として行い続ける理由はありません。

 にもかかわらず、自民党内でも反対者が極めて多かった郵政民営化は、そのような小泉氏の手腕でなければ法案を成立させることはできなかったでしょう。

 ただ、氏の一点突破型の手法が国家の基本問題というべきエネルギー政策で通用するのか、あるいは通用させてよいのかと言えば、答えは否と言わざるを得ません。

 

小泉氏首相在任中からは様変わりしている国際環境

 原発から出る高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のゴミ」を最終的に処分する方法が「ない」、ということを最大の論拠として小泉氏は原発ゼロを訴えているのですが、それだけの「理由」で原発をゼロにするというのはあまりに乱暴です。

 12日の日本記者クラブでの記者会見で小泉氏は、「1973年の石油ショックのピンチがあったからこそ、日本は環境先進国になった」と述べましたが、その石油ショックをきっかけに日本は原発活用に大きく舵を切ったという事実については口をつぐんでいます。

 メタンハイドレートなど、近海の底に眠る資源を採掘する研究開発が進んでいるとはいえ、我が国は依然、エネルギーのほとんどを海外からの輸入に依存しており、自給率を大幅に高める目処はまったく立っていません。

 その一方で、周辺の東シナ海や西太平洋へは、急速に軍拡中の中国が進出の野望をたくましくしています。仮に台湾が何らかの形で中国に併合され、ここも中国海軍の拠点となるようなことがあれば、日本のシーレーンは大変危険な状況に立ち至ります。

 しかも頼みの米軍は、国家債務問題の圧力によって軍事予算が大幅に削減され、「米国は世界の警察官ではない」と明言したオバマ大統領のもと、場合によっては東アジアにおけるプレゼンスを大幅に下げてしまう可能性もないとは言い切れなくなっています。

 つまり、中国の軍事的な威嚇や攻撃によって、日本にエネルギー資源を十分に輸送できなくなることも、これからはあり得るということを、国家指導者は常に念頭に置いて政策を考えなければならないのです。

 エネルギー安全保障の観点から資源の備蓄ということを考えれば、少量でも大きなエネルギーを生み出すウランやプルトニウムは極めて効率が高く、これを手放す選択は愚かと言わざるを得ないでしょう。

 我が国を取り巻く国際環境は、米国の力が圧倒的で、中国の軍事的脅威も相対的に小さかった小泉氏の首相在任の頃とは、もはや大きく変わってしまっています。引退してピンぼけした認識に基づく政策提言で、我が国のエネルギー政策を誤った方向に導くことは許されるものではありません。

 

我が国の安全保障を真剣に考えているのか

 近い将来、日本が戦争を余儀なくされるとしたら、相手は中国というのが最も蓋然性が高いといえるでしょう。その中国は核武装国です。

 現時点では日米同盟により我が国は米国の核の傘に入っているので「中国の核への抑止力は働いている」ということになっていますが、米国による核の傘の信頼性も永遠不変のものではないと見るべきです。

 実際、オバマ大統領の「米国は世界の警察官ではない」との発言は、米国外の安全保障に対する同国のコミットメントが引き下げられたことを意味しており、既にその信頼性は、もちろん無効になったわけではないものの、以前に比べれば低下しています。

 したがって、日本の原子力関連技術は現在、平和利用が前提ではあるものの、核兵器の開発・保有を可能とするオプションとしても維持しておかなければ、万が一の時の対応策を失ってしまうことになりかねません。

 小泉氏は毎日新聞記者の「潜在的核武装力を失うと国の独立が脅かされませんか?」という質問に答えて、「それでいいじゃない。もともと核戦争なんかできねえんだから。核武装なんか脅しにならないって」としています(「文藝春秋」2013年12月号)。

 極めて雑な回答というほかなく、我が国の安全保障を真剣に考えているのか大いに疑問です。最悪のシナリオとして、米国の核の傘なしで、中国の核による恫喝に対峙しなければならなくなる事態も想定しておかなければならないのに、あまりにも無責任でしょう。

 しかも、原子力の平和利用が前提の議論においても、米国は日本の原発ゼロ政策には反対しているという事実があります。

 昨年9月、民主党の野田佳彦政権は「2030年代に原発ゼロ」方針を閣議決定しようとしましたが、米国側から繰り返し強い懸念が伝えられ、結局これを見送りました。

 原発ゼロで日本の核技術が衰えれば、核不拡散に真剣に取り組まない中国などが世界の原発ビジネスで台頭する、核テロ対策技術が衰える、米国の原子力産業にも悪影響が出る、などが米国の主張する理由であったとされています。

 首相在任中、日米関係を中軸に据えて外交を展開していた小泉氏は、12日の記者会見でも、「同盟国の相手として、日本は米国にとっても同盟国として信頼たる国なのかを常に考えながら、日米関係を友好に保たないといけない」と発言していますが、日本の原発ゼロは米国にとっても不利益だと見られていることをどのように考えているのでしょうか。

 

核のゴミの寿命短縮という可能性もある

 小泉氏は、原発の建設にかかっていた費用を再生可能エネルギーの開発に振り向け、自然を資源とする循環型社会の構築という夢のある事業に、国家を挙げて取り組むべきだとしています。

 しかし、自然エネルギーの研究開発は引き続き進めていくべきだとはいえ、これをもって原子力の代替エネルギーとするのは現実的でないというのは、これまで当ブログでも再三指摘してきた通りです。

 昨年の夏に政府のエネルギー・環境会議が発表した「2030年原発ゼロ・シナリオ」では、ネットで80兆円もの巨額投資が必要となる一方、電気料金は最大2倍となり、実質GDPは自然体比マイナス45兆円となると算出されています。

 莫大な額のお金をかけた結果が電気代の値上がりであり、経済成長の鈍化であるというのは、ナンセンスな投資というほかありません。経済成長鈍化が意味するのは、本来倒産しなくてよかった会社が倒産し、失業しなくてよかった人が失業するということです(「12/3 そろそろ脱原発ポピュリズムから“卒業”しよう」 http://bit.ly/15eSofQ 参照)。

 そのような犠牲をもたらす、官民挙げての「原発ゼロ」事業に取り組む前にやるべきことは、放射能の無害化の研究や、核のゴミの寿命を短くする研究開発ではないでしょうか。

 人々が原発に対して否定的になるのはほとんどの場合、放射能を恐れてのことですし、「トイレなきマンション」と言われるように廃棄物処理の問題がまだ十分に解決していないことも大きな要因です。

 放射能の無害化はともかく、核のゴミの寿命短縮は実際に研究(※1)が進められています。

 加速器で陽子を金属に照射して中性子を発生させ、その中性子を放射性物質にぶつけることで核分裂を起こし別のものに変えることで放射能の寿命を短くするという技術の研究を、京都大学原子炉研究所の山名元教授(※2)が行っています。

 小泉氏は、現在の技術では核のゴミを最終処分場に10万年間も保管しなくてはならないことを「楽観的で無責任」と非難し、原発ゼロ主張の最大の論拠としていますが、核のゴミの寿命短縮化で10万年が数百年程度にでも縮まれば、話は相当違ってくるでしょう。

 原発ゼロという経済性がなく現実味の薄い事業に莫大な資金や資源を投入するよりも、このような研究に従来以上の予算や人員を投入して成果を上げた方が、これまで原発に投資した兆円単位のお金も無駄にならず、比較的安いエネルギーが確保されて経済成長を犠牲にせずに済むので、メリットが大きいといえます。

 放射能の無害化はいまだSFの世界の話でしょうが、「必要は発明の母」と小泉氏も言うように(上記「文藝春秋」)、必要なものはこれまでの科学理論にとらわれずにあらゆる可能性を追求して研究開発すべきです。人類がまだ気づいていない科学的真理はたくさんあるのではないでしょうか。

 表題に掲げた「宇宙戦艦ヤマト」は、皆さんご存じの通り、主人公たちが放射能で滅亡寸前の地球からはるばる14万8千光年彼方のイスカンダル星まで、「放射能除去装置」を取りに行って帰ってくる話です。

 最近、ハリウッド実写映画化に向けた動きもあるとされるこのアニメ、小泉氏がテレビや映画で見たことがあるのなら、放射能無害化というアイデアを思い付かないという言い訳は成り立ちません。こちらの可能性も初めから排除することなく、「夢のある事業」の一つとして研究開発をまじめに検討すべきだと言えましょう。

 

(※1)1988年に政府の原子力委員会が取りまとめた「オメガ計画」の一環として立ち上げられた。

(※2)ラジオ番組「ついき秀学の日本の未来はここにあり」2012年8月19日、26日放送分は、山名教授をゲストに招き、エネルギー問題を論じている(但し、核のゴミの寿命短縮についての言及はない)。http://bit.ly/I08liL

立木 秀学
(ついきしゅうがく)
東京大学 法学部 第3類(政治コース)卒業後、幸福の科学入局。財務局長、専務理事などを歴任し、幸福実現党に入党。2010年7月から2012年12月まで幸福実現党党首を務める。
現在、HS政経塾塾長。
HS政経塾公式サイト
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