96条改正では国民の理解は得られない?  昨年の自民党総裁就任前から、憲法改正の発議要件を緩和する96条改正を訴え続けてきた安倍晋三首相ですが、ここへ来て、その取り組み姿勢が軟化しています。  今月10日のテレビ番組で安

5/16 憲法改正に腰砕けの安倍首相へのアドバイス

96条改正では国民の理解は得られない?

 昨年の自民党総裁就任前から、憲法改正の発議要件を緩和する96条改正を訴え続けてきた安倍晋三首相ですが、ここへ来て、その取り組み姿勢が軟化しています。

 今月10日のテレビ番組で安倍首相は、96条改正を「無理にやろうとすれば元も子もない。国民的議論が高まっているかといえば、そうではない」と述べて、仮に7月の選挙を経て参院で改憲派が3分の2以上を占めることになったとしても、改正のタイミングは慎重に検討する考えを示しました。

 また、14日の衆議院予算委員会では、「96条(改正)についても、反対の方の意見の方が今、多いのも事実であります。たとえ今(衆参総議員の)3分の2(の賛成を得て)、これを国民投票に付したところで、これは否決されるわけでありまして、これこそまさに、わたしは民主主義なんだろうと思うわけであります」と答弁しています。

 こうした安倍首相の態度にならって、政府・自民党幹部も憲法改正への姿勢を明らかにトーンダウンさせています。

 菅義偉官房長官は14日の記者会見で、参院選では憲法改正を公約の一つとして掲げるが、経済再生や震災復興を最優先課題として訴えるという考えを表明。

 自民党の高村正彦副総裁も15日、「先の衆議院選挙の時よりも憲法改正に対する国民の関心は高まっているが、参議院選挙の大きな争点となりうるほど関心が高まるとは考えにくい」と、憲法改正は主要争点にならないという見通しを示しました。

 確かに世論調査の数字を見ても、NHKが13日に報道したものによると、96条改正については賛成20%、反対35%、どちらともいえない39%となっています。96条改正に対する世論の“冷たい”反応を受けて、政府・自民党はこれに迎合する方向へと進みつつあるといえましょう。

 こうした世論の背景には、96条改正に批判的なメディアや識者の影響もあるものと推定されます。

 特にインパクトがあったと見られるものの一つは、元来、改憲派の憲法学者であるはずの小林節慶大教授の、96条改正への批判でしょう。

 5月4日付の朝日新聞で小林教授は、「96条改正は『裏口入学』。憲法の破壊だ」との見出しのもと、「権力者は常に堕落する危険があり、(中略)憲法で権力を抑えるというのが立憲主義だ。だから憲法は簡単に改正できないようになっている」「権力者の側が『不自由だから』と憲法を変えようという発想自体が間違いだ。立憲主義や『法の支配』を知らなすぎる」と、バッサリ斬り捨てています。

 こうした本質的な指摘以外にも、大小様々なことについての批判が相次ぎました。

 安倍首相に即して言えば、3月の国会質疑で、憲法学の第一人者と言われ、いまだにその著書が憲法学の定番テキストとなっている、故・芦部信喜東大名誉教授のことを「知らない」と答弁したこと。

 また、自民党の憲法改正推進本部事務局次長・起草委員会事務局長の礒崎陽輔参院議員が昨年5月、立憲主義について「私は、芦部信喜先生に憲法を習いましたが、そんな言葉は聞いたことがありません。いつからの学説でしょうか?」と、ツイッターでつぶやいていたこと。

 より重たいのは、「一票の格差」の問題で現在の衆議院、参議院とも裁判所から違憲判決を受けており、そのような国会に憲法改正を進める正当性があるのかという批判です。

 明治憲法から日本国憲法への改正を除けば、日本では憲法改正は初めてのことなだけに、これを進めるに当たって、いろんな批判や意見、懸念が噴出するのはある意味当然でしょう。

 ただ、自国が明確に侵略の危機に晒されているのですから、しっかり国を守る体制をつくることこそ最優先の課題です。他国により侵略され、あるいは属国にされてしまったら、立憲主義や「一票の格差」の是正を求めることすら叶わない世の中になってしまいます。

 それにしても96条改正は、国民から安易なやり方であるとの印象を持たれてしまった憾みがあります。単なる手続きの緩和に過ぎないため、改正への大義名分が薄くなってしまいました。

 当ブログの前回記事(http://bit.ly/16A2slx)では、96条改正によって憲法改正の難しさはフランスなみになるが、同国で立憲主義が揺らいでいるという話は聞かないため、96条改正に大きな問題はなく、次のステップとしての9条改正を急ぐべきだ、という趣旨のことを書きました。

 しかし、本来はやはり、幸福実現党が従来から主張していた通り、9条改正を真正面から国民に訴えかけて進めるべきであったといえるでしょう。

 それが証拠に、前出のNHKの世論調査では、9条を改正して国防軍保持を明記することについては、賛成27%、反対26%、どちらともいえない40%と、賛否が拮抗しています。少なくとも96条改正に比べれば、9条改正は昨今の国際情勢を踏まえて大義名分を立てやすく、相応の努力をすれば国民の理解が得やすかったと思われます。

 

9条改正と解釈改憲をセットで国民に訴えよ

 安倍首相に言いたいのは、今からでも遅くはないので、9条改正を次期参院選の主要争点として掲げるべきだということです。

 96条改正という、一見「うまい兵法」に見えるアプローチも、実は単なる技術論でしかないことを早くも国民によって見透かされたのですから、海外から「ナショナリスト」と呼ばれるのを恐れずに、正々堂々と、国防軍の憲法への明記を主張して、国民を説得することです。

 目下、北朝鮮に飯島勲内閣官房参与を送り込んで交渉に当たらせており、ひょっとすればここから何らか成果(といってもまったく不十分なものでありましょう)が出るのかもしれませんが、安全保障上の根本的な解決にはなりません。軍事的な抑止力を飛躍的に高めて彼の国に圧力を加え続け、かつ内部から体制崩壊させるための工作を仕掛けていくべきです。

 そのためにも9条改正は急務です。そして、参院選でこれを争点化するに当たり、同時に9条の解釈改憲を掲げることも提案したいと思います。

 どういうことかと言えば、参院選の結果、改憲勢力が3分の2以上の議席を獲得できれば9条改正を行い、3分の2には達しなかったものの、過半数を押さえることができれば、その場合「安全保障基本法」(仮称)などの制定によって9条解釈の変更を行い、もって防衛軍の保持を可能とすべきだということです。

 9条の解釈変更については、これまでにも何度か述べてきましたが、次のように考えます。

 9条に対する現行の政府解釈の前提となっているのが、前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」という部分です。しかし、中国、北朝鮮という軍事独裁国家が近隣に厳然と存在している以上、この文の内容をそのまま実践すれば、「われらの安全と生存を保持」できなくなるのは火を見るより明らかです。

 したがって、9条が軍隊などのいわゆる「戦力」保持を禁じ、交戦権も否認しているというのは、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」できる場合に限っての話であって、信頼できないのであれば、戦力保持も交戦権も認められると解するべきです。

 こうした解釈を法律で確定することで、自衛隊の軍隊化が可能となり、集団的自衛権の行使も認められます。

 現在の自衛隊は警察と同様に法律で権限が細かく決められており、新しい任務を行うには新しい法律の規定が必要とされますが(ポジティブ・リスト)、一般的に軍隊は対外的には国際法で禁止されていること以外は何をやってもよく(ネガティブ・リスト)、自衛隊が軍隊と位置づけられれば、外国からの侵略、侵入、あるいはその準備行動に対して、機先を制して対応することもできるようになります。

 また、自衛隊の装備は、自衛のための必要最小限度でなければならないという縛りもなくなるため、ミサイルや空母、爆撃機等、他国を直接攻撃する能力も持てるようになります。これは我が国から他国を侵略しようとするものでは当然なく、他国から脅迫されたり攻撃されることを防ぐために抑止力として備えるものです。

 もちろん、9条を改正して、国防軍保持を明記すれば同じことがより確実に行えるわけですが、憲法改正だけでなく、解釈改憲も併せて提示することで、有権者に対して国防強化への不退転の姿勢を打ち出すことができます。

 参院選を通じて3分の2を確保できれば9条改正、3分の2を確保できなくとも、過半数を確保していれば立法措置を伴う解釈改憲を行い、いずれにせよ自衛隊を国防軍にしてしまう。

 解釈改憲の立法化は選挙後に言い出せば、民意に基づいていないという批判を受けることになりますが、選挙の際にしっかり争点にしておけば、そのような批判は当たらなくなります。

 もっとも、憲法改正でなく立法措置にとどまった場合、将来的に国会の多数を反対派が占めるようになればひっくり返されてしまうこともあり得ますが、現在の中国、北朝鮮の脅威を踏まえれば、抜本的な防衛力強化に向けて何もしないという選択はあり得ません。完全ではなくとも、一歩でも二歩でも前進させるべきです。

 普通はあり得ない、憲法改正と解釈改憲という二重の提案をあえて打ち出すことによって、それだけ国防問題が喫緊の課題であることを示し、これに自らの政治生命を賭けて真剣に取り組んでいるというというメッセージを発することができます。

 マスコミや国民の無理解を理由にこの問題をなあなあでやり過ごせば、近い将来に大きな禍根を残すことになるでしょう。安倍首相は内閣支持率の低下を恐れることなく、国民を守るために本当に必要なことを腹を据えて行っていかなくてはなりません。安倍首相にとって、乾坤一擲の、ここ一番の大勝負をかけるべき時が来ているのです。

 

立木 秀学
(ついきしゅうがく)
東京大学 法学部 第3類(政治コース)卒業後、幸福の科学入局。財務局長、専務理事などを歴任し、幸福実現党に入党。2010年7月から2012年12月まで幸福実現党党首を務める。
現在、HS政経塾塾長。
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